平成29年度セミナーを開催しました


平成29年度のセミナーは、Office-Kyo-Shien代表、池西静江先生をお迎えし、「臨床現場において看護を教えるために必要な経験と学習―臨床指導力アップにつながる学び方とは-」をテーマに開催いたしました。池西静江先生は、これまでに様々な研修会で看護教員や臨地実習指導者を指導してこられた方で、看護教育に携わる者なら一度はお名前を聞いたことがある先生です。
DSC_0032講師の池西静江先生
セミナーでは、まず参加者がこのセミナーに期待すること、自己の課題をワークシートに書き出して明確化し、次に、セミナーを受けてヒントを得られたこと、残った課題を出し、さらに、それを小グループで検討するというように、参加型で進められました。さて、ご講演では、看護基礎教育における臨地実習の特徴について、改めて確認することから始まりました。臨地実習と講義・演習の最も大きな違いは、そこに生身の患者様がおられること。したがって、患者様の看護目標の達成に向かうことと、学生の学習目標が共存します。つまり、実習には「目標の二重構造」があることを教えていただきました。
DSC_0029ご講演の様子
また、臨地実習は、授業の一環でもあることから、指導者には、看護場面を「教える内容」として「教材化」する力が必要です。池西先生から、具体的な看護場面の教材化の例をお示しいただきました。その具体的な方法は、ひとつは実践モデルを示すこと。患者さんに寄り添うことの大切さを教えたいと思えば、そのような看護場面を選んで、自らの実践で示すことが教材化になります。その場面を見せることで、寄り添うことの重要性に気づく学生もいます。しかし、場面を見せても「あの看護師さんはすごいな」とだけ思う学生には、その場面の意味に気づかせる「発問」が必要になります。
さらに、臨地実習指導者に求められる能力として、「看護師モデルを示す能力」「関係調整能力」「学生の力を見極め、引き出す能力」「小集団(グループ)を動かす能力」の4つが示され、それぞれの能力がどのように発揮されているのかを具体的な指導事例をもとにご説明いただきました。
これらの講義を受けて、参加者がグループで検討した結果、「残った課題」として最も多くあげられたのは、学習者の学習を促進する「発問」がうまくできないということでした。具体的には、「自分が望む答えを誘導してしまっている」「学生が答えに行き着かないときには答えを言ってしまっている」「看護を伝えるための場面の切り取り(教材化)がうまくいかない」などでした。池西先生からは、教材化できる場面として、1.実習目標で期待すること、2.学生あるいは看護師の行った看護の場面で、これが看護と伝えたい場面、3.学生が困っていることの3つがあること、また、このような場面で学生の心を揺さぶること、学生が思考せざるを得ない状況にしかけることなどが良い発問につながることを教えていただきました。
IMG_0327 IMG_0325 グループワークの様子
今回のセミナーは、臨床指導者研修を受講してもなお尽きない臨床指導上の悩みについて、どのような臨床経験を積むことや、学習を重ねることで解決できるのかがテーマでした。池西先生のお話を聞いて、臨床指導上の悩みが尽きないのは、看護が展開されるその場面で瞬時に指導していくこと、つまり、上記の「2.学生あるいは看護師の行った看護の場面で、これが看護と伝えたい場面」を教材化していくことの難しさであると感じました。臨床現場では、「これが看護」と言える場面があっても、ぼんやりしているとすぐに通り過ぎていきます。その貴重な場面を教材化し、学生の思考を揺さぶる発問ができることが教員や臨地実習指導者には求められると言えます。その発問のスキル向上は、教員や指導者自身が「これが看護だ」「ここを伝えたい」と思えるかどうかにかかっています。池西先生が本日教えてくださったことは、私達が日々の看護実践や教育実践で、いかに看護を思考しているかということや、自分の看護実践を語ることができること、そのことが臨床指導技術の向上に直結しているということではないでしょうか。
池西先生は、私達のどんな質問にも、質問者の思考が深まるお答えを返してくださいました。その温かなお人柄や先生の「発問」の実際からは、「これが看護教員」「本物と言える看護教員」像が感じられ、私達の向かうべき道をお示しいただいたような気がして、心が熱くなりました。最後に、参加者にお書きいただいたアンケートに「教員に反発したり反抗的な態度を示す学生にどのように指導すれば良いのか」という質問がありました。この質問に対して池西先生は、「これは教員と学生との信頼関係の問題ではないでしょうか。看護と同じで、教育も、学習者と指導者の関係形成、信頼関係がまず作られ、その上に成り立っているのだと思いますよ」とお答えくださいました。看護教員として最も大切なこと、本研究会のコンセプトである「ケアリングのある教育」の重要性を改めて教えていただきました。