2025年2月9日(日) 甲南大学経営学部教授の尾形真実哉先生にご講義いただきました。会場の神戸女子大学ポートアイランドキャンパスには約60名の方がご参集くださいまいした。
オンボーディング(On-boarding)とは、元々は船や飛行機などに乗るという意味ですが、船や飛行機を組織にたとえ、新しく組織に参加してきた個人を同じ船(組織)の乗組員としてなじませ、適応できるようにサポートすることを指します。このサポートには非公式な活動も含めて、情報を与える行動、迎える行動、導く行動の3要素があります。一般企業への調査では、オンボーディングに力を入れている企業の方が、そうではない企業よりも中途採用者の定着率やパフォーマンスが良いということ、また、職場のコミュニケーションが活性化したり、業績が向上したりなどの成果もあり、オンボーディングは単に新規採用者のためだけではなく、組織自体を強くする効果があるとのことです。
ところで、新卒者の組織適応の課題として「リアリティショック」が上げられます。「リアリティショック」は看護の世界でも良く耳にしますが、その意味をしっかりと説明できるでしょうか?尾形先生は、これまでにリアリティショックの研究を多数されてきました。ですので、今回の講義においてもリアリティショックについて多数の知見をお話くださいました。新卒者の適応との関連では、新卒者が何にリアリティショックを感じるかということ、その中のどの要因が離職につながるのかを知ることが重要とのことです。看護職のような専門職型のリアリティショックでは、現実の厳しさをあらかじめ予想していても、それを超える厳しい現実が、リアリティショックを引き起こしています。リアリティショックの予防策には、プレオンボーディング、すなわち、入職する前の対応が効果的で、アメリカではRJP(Realistic Job Preview:現実的職務情報事前提供)が効果をあげているようです。RJPでは、良いことばかりではなくネガティブな面も含めて誠実に情報提供することが必要です。看護職の場合、基礎教育段階で臨床実習があるので学生は将来の就職先の状況を予め知っています。それなのに新人看護師となった時にリアリティショックが発生するのはなぜでしょうか?尾形先生からは、看護学実習において、学生に正確な現場の実態が知らされていないのでは?との問いかけがありました。看護職者のスムーズなオンボーディングを実現するためには、基礎教育段階の「実習」の検討も必要であることがわかりました。
さて、就職後の組織でのオンボーディングについて、尾形先生から5つの提言が行われました。それは、①配属の意義転換、②効果的な研修のデザイン、③適応エージェントの提供、④チーム育成、⑤環境整備です。
ここでは、新規採用者の配属先を検討する際に欠員の「補充」ではなく「教育」の観点に切り替えること、つまり、「育成上手」の上司がいる組織に配属することや、良いメンターを割り当てること、サポートチームを育成することなどがオンボーディングの促進につながることを学びました。特に、重要なのは環境整備。これは、職場内のコミュニケーションや相互学習、相互支援、育成の文化を醸成するなどを担う職場デザイナーとしての管理者の存在を意味します。中でも管理者の職責として重要なことは、今働いている社員を生き生き働かせることです。新卒者が憧れ、ロールモデルとなる先輩が多い組織が魅力的な組織といえそうです。
最後に、尾形先生から今後の人材育成の課題についてのお話がありました。
これまでの一斉研修を前提としたマス型や均等型ではなく、新卒者ひとりひとりに合ったオーダーメイド型の育成が必要で、そのためにも、管理職の人材育成力、職場デザイン力は一層求められそうです。
今回のセミナーでは、尾形先生はこれまでのたくさんのご研究の中から多くの知見をお話しくださいました。参加者からも、多くの質問が寄せられていました。尾形先生、ご参加の皆様ありがとうございました。