今年度は、コロナウイルス感染症も2類から5類に変更となったため、対面式で定例会を開催しました。
大阪公立大学院看護学研究科実践看護学領域看護学分野 看護技術学の講師 山口舞子先生から「VRシミュレーションを用いた授業デザインと評価について考えるー基礎的看護実践力の育成を目指してー」をテーマに実践報告をしていただきました。今回は、VR機器を持参いただき、参加者にもVRシミュレーションの実際の体験をしたうえで、ディスカッションも大変盛り上がりました。
最初に、山口先生のこれまでのご自身の教育経験の中で、近年学生達が、患者とのコミュニケーションを取りながら観察し、共感する力が低下していることや、与えられた事例患者からの情報収集により受け身的学習になっているために、基礎的な看護実践能力が育成できていないということに問題意識を持っていることを伝えてくださいました。そこで、山口先生は、今回看護実践能力を育むためにVRシミュレーションを用いた授業デザインを導入されました。まず、大阪府立大学看護学部(実践された2022年度時点、現大阪公立大学)の教育目標からどのように基礎看護技術教育の実際がデザインされ授業構築がなされているかを説明いただきました。ご紹介いただいた授業が、講義から演習を経て基礎看護学実習に向かうための教育的位置づけの中に計画的にデザインされていました。
具体的には、VRシミュレーション(VR学習)前の事前課題として2週間前に事例を提示したうえで、胸部・腹部のフィジカルアセスメントの講義を実施し、講義後に事前課題に沿ったVR学習を実施し、その翌週に基本手技を用いた胸部・腹部の身体診査の演習をおこなうという流れでした。この授業デザインにすることで、事前課題で考えてきたことを一旦VR患者から得られた情報と照らし合わせて、不足している情報が何か、必要な問診を考えたうえで、翌週の実際の身体診査における学習の動機づけを高めることを狙いとされていました。
既に同様のVRシミュレーションを取り入れた授業をされている参加者の方からは、授業のどこにVR演習を組み入れるかによって教育効果に影響することに示唆を得て、自部署での今後の授業デザインを検討する機会になったというご意見をいただきました。また、事例設定においては、例えば、他科目で看護過程に用いている事例にするなど学生のレディネスなどを鑑みることの必要性や工夫の余地もありそうです。さらに、VR学習を取り入れることで臨地実習では体験できなかった新たな技術習得も仮想空間の中で体験できる(例;ドレーン挿入中の患者・ガーゼ汚染の実際など)可能性もあるなど、今後のVR学習の可能性を含めて様々な意見交換がなされました。VRシミュレーションを用いる意義は、リアリティを感じさせることにあるといえます。ディスカッションでは、そのリアリティは、VRを用いているからこそ患者の重症度を感じることや、学生同士ではない状況での対象者とのコミュニケーションなどの要素があることを確認しました。加えて、VR学習によって、学生が今後遭遇する可能性のある場面への動機づけとなり、その時に慌てずに行動できる、患者の安全性を一番に考えるという看護職としての責任を感じることにもつながるのではないかという意見もあり、新たな気づきと学びを得たディスカッションとなりました。
授業後のVR学習の授業アンケート調査の紹介では、今回の学習目標に沿って「患者に何が起こっているかを考えることができたか」「臨場感をもって学べたか」「VR患者への問診や身体診査により、来週の技術演習を積極的に学ぼうという気持ちになったか」という質問に対して、ほとんどの学生が良い学習効果を得ていることが明らかになったとのことでした。しかし、基礎的な看護実践能力の育成にVR学習が役立っているのかを評価するためには、どのタイミングで評価をするのか、看護職として職責を問うことも課題ではないかという意見も出ました。
今回の学びが、今後の皆様の現場での教育プログラムへの活用の一助となることを願っております。ご参加いただいた方々に感謝申し上げます。