平成30年度第1回定例会を開催しました


平成30年度第1回定例会は、当初7月開催予定でしたが、豪雨により9月に延期し開催させていただきました。今夏、関西では、豪雨、台風と数度の災害が発生しました。被害を受けられた皆さまには、改めてお見舞い申し上げます。本研究会の7月定例会にお申し込みいただきました皆様には、日程変更により大変ご迷惑をおかけしました。
今回のテーマは「パフォーマンス評価導入に向けた取り組み」で、奈良県立病院機構看護専門学校の田畑典子先生に話題提供をしていただきました。

話題提供者の田畑典子先生

田畑先生は、なぜ、パフォーマンス評価を導入したいのかを考えたときに、看護実践能力を身につけさせたいという願いがあり、そのためには看護実践能力の要素を確実に習得する必要があること、また、「生涯に渡って学び続ける人材」を育成するという観点からも、学生が、教員、指導者と学習目標を共有しながら、自己主導的に学ぶ必要があるという思いなどを述べられていました。
今回ご紹介くださったのは、3年生の統合実習での使用を想定した「看護実践能力育成」に関するルーブリック評価表でした。そして、看護実践能力を育成するという観点では、どの学年も目指すものは同様と考え、同じルーブリック評価表を1年生の演習にも導入しようとしているとのことです。試行的に、今年度の1年生のシーツ交換演習に使用してみたところ、学生の演習後レポートに、これまでとは異なる記述の広がりがあったそうです。
ルーブリック評価表を導入する際の留意点として、記載された言葉の解釈に差異が生じることが挙げられました。例えば、「わかる」という言葉でも、学生にとっての「わかる」と、教員や指導者にとっての「わかる」とは異なっているということです。これは教員間でも同様であるという意見も出ました。これらの認識の差異が生じないような表現や、互いの認識を確認するための話し合いこそがとても重要であることを確認しあいました。
ご紹介いただいたルーブリックの今後の活用の可能性や課題についての意見交換を行いました。まず、3年生の統合実習の目標が、このルーブリックで明確になっているだろうかという疑問があがりました。これについては、田畑先生から、今回ご紹介いただいたルーブリックは、学校のディプロマポリシーをもとに作成したということでした。なぜなら、卒業時の看護実践能力の習得を想定しているからです。しかし、1教科だけで卒業時の目標が達成できるものではないので、教科毎のルーブリックが必要ではないかという意見が出ました。また、このルーブリックを1年生の演習に援用することについても同様に、1年次の評価レベルと3年次の評価レベルは異なるので、各時点での目標レベルを提示したシーツ交換独自のものがあると、活用しやすいのではないかという意見も挙げられました。
さらに、評価の文言については、学生と共有するということを前提にすると、学生にとって具体的なわかりやすいキーワードを入れ込む必要や、学生が正しく自己評価ができるように、ルーブリック評価表に自己記載欄をもうけることで、自己評価と教員評価の差の要因も明らかにできるのではという意見も出されました。
また、他大学でもルーブリック評価表は何度も作り直してきたことも話題となりました。その作成プロセスで、教員間で意見交換し、互いの価値観などにも気づくことが、教育内容や方法の相互理解や適切な評価につながることが分かりました。これについては、臨床現場の看護管理者からも、マネージメントラダーを検討していく際に、到達目標をより具体的に示すことが、管理者として何を大切にしているかを確認し、管理者同士でそれを共有していくツールにもなるという意見もあがりました。

定例会の様子

ここで忘れてはならないことは、評価表の観点が一体何かということです。なぜなら、学生に、学ばせたいことが観点として反映されなければならないからです。例えば、清拭の演習では、学生が準備したお湯の温度が評価の対象になってしまうことがあります。しかし、私たちが目標とするのは、患者さんにとって、気持ちのよい清拭を提供できる技術です。そう考えると、評価の観点は、湯の温度ではなく、学生が準備した湯で患者が温かいと感じられたかであることに気づきました。つまり、ルーブリックの観点では、「湯の温度」ではなく、「患者が温かいと感じられる」ということになります。こういったことは、パフォーマンス評価を行う際に、評価者が、教育の成果の軸をどこにおいているかということに準拠するため、教育観が問われる重要なポイントだと思われます。
田畑先生は、今回ご紹介いただいたルーブリックを、職場での共通理解をはかり、活用を進めると述べておられました。まずは、自分の担当教科から実施してみて、それを改善していく過程で、学生に起こった変化から職場の理解も得られ、評価の転換時期が訪れるのではないでしょうか。今回のように、各々の教育現場、臨床での事例などの情報交換も踏まえながら、皆様が抱えている教育上の課題などを共有し、少しでもヒントが得られる場として定例会をご活用いただければと思います。
次回の定例会は少し趣向を凝らして、教育者のスキルを磨き、学び直せるための看護技術のワークショップを企画しています。間もなくアナウンスをさせていただきますので、皆さまのご参加をお待ちしています。