平成25年度 第2回定例会


日時:平成25年9月21日(土)13時30分~16時30分
場所:大阪保健福祉専門学校
看護技術教育の前提を問う~良い看護師を育てるために~基礎教育と臨床教育では何を伝えてきたのか?Part2 陰部洗浄技術を通して

基礎教育と臨床教育では何を伝えてきたのか?

第2回定例会「基礎教育と臨床教育では何を伝えてきたのか?Part2陰部洗浄技術を通して」を開催しました。今年度は、看護技術教育の前提を問う~良い看護師を育てるためにというテーマに沿って議論を重ねてきました。前回の足浴に続き、今回は「陰部洗浄技術」を取り上げての開催です。
最初に、看護基礎教育の現場から、中岡亜希子先生(大阪府立大学)より、5大学での陰部洗浄技術に関する演習形態についてご紹介いただきました。陰部洗浄技術は清潔援助または排泄援助のどちらかに分類され、各大学の解釈によって異なる単元設定がされていること、2校は学内で学生同士の演習実施を課していない現状が報告されました。陰部洗浄技術は学内では学生同士で実体験させることができない技術でありながらも、臨床で実施する機会が多いと教員らは認識しており、演習形態に悩みながら工夫している実態が提示されました。
次に、演習教育内容と工夫の実際を、山本直美先生(千里金蘭大学)よりご紹介いただきました。排泄援助技術の一環として、オムツ上での陰部洗浄(看護師1名介助)、便器を用いた陰部洗浄(看護師2名介助)の2事例を学生は検討し、教員のデモンストレーションの後、学生が演習に取り組むという演習方法を用いられています。工夫の一つは、学生が陰部部分の写真を張ったレインパンツを着用し演習をしていることです。レインパンツを用いた経緯は、学生が演習で濡れることから守るための教員の工夫の結果でした。しかし、教員は、このような学生が濡れない演習形態をとることが、学生の患者体験としての意味や、臨床実践とのつながりに疑問があること、学生にどこまで患者体験をさせる必要があるのか?といった問題提起がなされました。
臨床現場からは2名の方より話題提供を頂きました。石川泰子看護師(奈良県立医科大学附属病院)からは、学生への臨地実習教育での経験をもとにお話いただきました。学生は臨地実習で、病棟毎にの物品の使用、患者の様々な状況にあわせた援助が求められるため、演習で学んだことがそのまま適応できない状況に直面します。例えば、腹部術後の創痛に配慮するためには、便器挿入ではなく、オムツを代用し実践する等、日常の臨床現場での陰部洗浄の実際を踏まえて学生に指導していることが紹介されました。そして、陰部洗浄技術では、「患者の思い」を尊重し、配慮することが重要であり、その援助は患者との信頼関係にもつながるものであることをご提示いただきました。
吉田絵美看護師(医療法人晋真会ベリタス病院)からは、ご自身の看護体験よりお話をいただきました。陰部洗浄はどの患者に対しても、「陰部の清潔を保つ」という目的が達成されるべきものであり、その目的は以前検討した足浴に比べ、明確なものであることが示されました。また、実習指導経験から、臨床と学内演習との違いの一つに、臨床現場での物品の不足やコストの兼ね合いが挙げられました。学内ではバスタオル3枚、タオルケット1枚を用いた方法は可能でも、臨床現場ではそれらが患者からの提供となるため、患者家族の負担も考えると、学内と同様の手段を用いることは難しい状況があります。それ故、看護師には「患者に納得を得る」という説明や声かけ、そして、患者の状況を予測した準備、決して患者のベッド周囲を汚さない的確な手技と観察の重要さが示されました。また新人看護師や学生へ指導する上では、実践したことを振り返ること、先輩の手技を見て何を感じたのか考えることの大切さをお話しいただきました。

4名の話題提供者の発表を受け、フロアからたくさんの意見が飛び交いました。
まず最初の議論は、陰部洗浄の原理原則とは何か?臨床看護師からは、職場や病棟を変わっても陰部洗浄技術は「ほとんど」かわらない。この「ほとんど」の中身について議論がされ、異なるものは、使用する物品(ラバーシーツ、洗浄用ガーゼ、石鹸など)。変わらないものは、手順や実施上の留意点であることが示されました。しかし、これらは、熟達者ならではの、道具の意味(アフォーダンス)を見いだす力によるものではないか?臨床看護師には、「大差ない」と見えることが、初学者にとっては、「全く違う」ように見えるものであり、教授者側はこの違いの意味を理解していることの重要さが見出されました。
また陰部洗浄技術で共通して実践していることは「綺麗な部分は汚さない」「感染予防」「患者にとっての安楽な順序」「羞恥心への配慮」であり、これらが技術の重要な点として共有されました。
ところで、患者の下肢をバスタオルで覆うということは実際の臨床現場では前述の通りされていません。そこには、「コストや患者家族の負担」と「患者の羞恥心」何を重視すべきか葛藤が生じる場面です。このような場面から何を学ぶ事につながるのかという点での議論がなされました。このような場面に学生が出会った時に、学生の中には「なぜ足を覆っていないのか?」という疑問が生じるでしょう。それに対して看護師からすれば、覆っていない「意味」もあるのではないでしょうか?看護師が学生の疑問を聞く姿勢を持つことで、そこから一緒にもっとよい方法を考えるという「越境的な場」knot working(結び目つくり)ができるのではないか。学生は、臨床現場にとっては、その場の歴史や慣習を知らない「異質な者」でもありあます。そういった視点で学生の「疑問」に耳を傾けともに考えてみることで、時に越境的な場として成立するのかもしれません。
さらに、議論は学生の患者体験について及びました。「患者の羞恥心への配慮」は臨床も基礎教育も重視している点で共通しています。この理解を促すために、学生にはどういった体験が必要なのか?ここも議論白熱でした。話題提供にあった「レインパンツ」の工夫にも様々な意見が出されました。「とても良く考えられた工夫だ」活用してみたいという意見もあれば、そもそも「濡れてしまう技術」なのに、敢えてその「濡れた不快感」を感じることなく患者の不快さを理解できるだろうか?学生にとっては「濡れる」ことより、たとえ服の上からであっても陰部に直接「触れられる」ことが不快でもあり学生にとって苦痛ではないか?どこまでその体験をさせる必要があるのか?、ある学校ではある程度羞恥心を伴う技術演習を学生間で実施しているが問題は生じていない。体験するからこそ理解できることもあるのではないか?また自身が患者体験をすることで、自己の思考を振り返り考える力を身につけて現場に来てほしいという意見もありました。
今回の議論では、陰部洗浄技術をもとに多様な議論がなされました。今回の議論では教育の核として「援助の順序性」「時間」「看護師としての姿勢、心意気」「自己の思考の振り返り」が見出されましたが、まだまだ議論は続きそうです。今回のディスカッションの場はまさに、立場も職場も越えて越境的に議論し合う場でもありました。今回の議論を踏まえ、次回第3回定例会は、「新たな授業案作成の試み」になります。提案される授業案もとに、更なる議論が展開されることを期待しています。
第3回定例会は、平成26年1月25日(土)に開催されます。皆さんのご参加をお待ちしています。

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