平成25年度 第1回研修会


日時:平成25年9月21日(土)10時~12時
場所:大阪保健福祉専門学校
研修会テーマ
「状況的学習論がもたらす看護教育の変革可能性とは 」
~教育と現場、コミュニティ間をつなぐ試み~
講師:香川 秀太先生(青山学院大学)
参加者人数:

状況的学習論がもたらす看護教育の変革可能性とは

本年度第1回研修会として、本研究会アドバイザーでもある香川秀太先生を講師にお迎えし開催いたしました。平成23年度~24年度「基礎から学ぶ学習理論」として3回シリーズで学習理論の変遷を踏まえ、状況論についても学習をしてきました。今回は、実際の看護エデュケア研究会の活動が「状況論」からみるとどのように捉えられるのかを具体的にお話いただきました。
研修会のスタートは、「どんなうそでもいい、ありえない事でもよいので、皆さんの夢を話して下さい。聞く人はどんどんインタビューするように問うてください」という香川先生からの問いかけでした。顔見知りの方も、初対面の方も、最初は考えながら、徐々に大きな笑い声が広がりとても楽しい雰囲気になっていきます。和やかな雰囲気の中、「状況的学習論」について、具体的な話題を通してご講演頂きました。
たとえば、「主体性が大事」。看護教育の現場でもよく聞かれます。『学生の主体性が…』『新人さんの主体性が…』では、指導している私達はどんな発問を相手に投げかけているでしょうか?香川先生が紹介された調査では、「上司や先輩が期待する特定の適切な行為を新人がとっているかどうかを問い、評価をする発話が多い」つまり、上司や先輩にとって望ましい行為が予め決まっていて、その評価の枠内で新人の行為も評価されているという相互行為パターンが提示されました。これは、「教育者や先輩が悪い」「新人が悪い」という話ではありません。お互いにそういった繰り返しの中で関係が築かれてきた事に目を向け、その「歴史性」を変える、しかも「相互志向的」に。いかがでしょうか?
冒頭の自己紹介のゲームの種明かし。普通(?)の自己紹介といえば、「名前、所属、今のお仕事、関心のあるテーマ」等でしょうか。これでも相手を知ることはできますが、最初のGAMEでは「実はそんな願望があったの?」と、これまでとは違う相手の一面に出合ったり、さらに話を引き出そうと、いつもとは違う会話の雰囲気になったり。同じ「自己紹介」ですがお互いの「やりとり」を少し変化させることだけでも、ずいぶん違いを感じます。自己紹介にも馴染んだ「やり方」が自分の中にあったことに気付かされます。
変革するということは、単に新しい事をとりいれるということではなく、組織や、関係性の中にある「自明性」や「自文化密着」に目を向け、そこを変えるべきかどうか吟味し決定していく。しかしそこには必ず「抵抗」もある。これには、他者からの抵抗もありますが、知らず知らずに自分自身の中にあるこれまでのことを維持しようという抵抗もあることを意識する。決して「古いこと=悪い」ではなく、何を残して何を変化させるのか、議論を戦わせ吟味していく、ワクワクする反面、リスクもある。手探りの怖さと楽しさ。実は現在看護エデュケア研究会の議論の在り方にもつながっています。
毎回、私達の議論は何が答えかを出すというわけではありません。この研究会は、臨床、教育現場、色々な形で看護教育に関わる人たちのディスカッションの場です。自分と所属組織の違う他者、つまり自分の文脈にはいない、距離のある「異質な者」、その状況にはなじみの無い『“非”熟達者』の存在からの問いが、自分の「自明性」を問われる機会となり、自分の実践を振り返るきっかけを提供しあう「越境的対話」の場になっていることを実感しました。
ただし、異質なものが集まって話をすれば「越境的対話」になるわけではなく、お互いの関係性も大事です。一方だけが知識を得る、吸収しようとする関係では「越境の場」は成立しない。「双方向の関係、互いに重なり、境界を減らして、互いの立場が曖昧な領域を作り、互いの知識や利益を交換していく大切さ」を提示いただきました。そして、あまり堅苦しくなく、お互いへの「リスペクト」と「楽しさ」という情動の交換が成立するような場であることの大切さ。
「学生が悪い?」「教育が悪い?」「新人が悪い?」こういった「悪いのはあちら」症候群(センゲ1990)を抜けだし、越境的対話を通して、本当に何が大切なのかを問いあうことで、何か変化が出てきそうだと感じた2時間でした。

企画担当者:三谷理恵

さらに学習を深めるために以下の書籍を紹介致します。
・香川秀太(2013)「状況的学習からみた心理の働き」
小林俊哉・齊藤勇・匠英一(編)ビジネス心理検定試験公式テキスト<1>基礎心理編
中央経済社 2013
・香川秀太・青山征彦(編著) 越境的対話の世界:異質なコミュニティの出会い(仮)新曜社(今冬出版予定)
・茂呂雄二、青山征彦、伊藤崇、有元典文、香川秀太、岡部大介(編)状況と活動の心理学 コンセプト、方法、実践 新曜社 2011

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