第2回定例会を開催しました


第2回定例会は、「臨床と学校をつなぐ教育―教育ボランティアを活用した総合技術演習―」をテーマとし開催しました。話題提供者は、本研究会代表で神戸市看護大学の澁谷幸先生です。今回の定例会は、神戸市看護大学での教育ボランティアを活用した総合技術演習について具体的な実践事例と共に研究成果を交えて発表いただき、発表の随所で臨床と学校をつなぐ教育について意見交換を行っていきました。
話題提供者の澁谷幸先生話題提供者の澁谷幸先生
澁谷先生は所属大学のカリキュラムの構成から、学生が初めて臨床現場に出る基礎看護学実習での課題が大きすぎるのではないかという問題意識を持ち、学生が基礎看護学実習に出る直前のウォーミングアップとして「総合技術演習」を実践されています。この演習は、活動理論を基盤としています。活動理論では、2つ以上の活動システムや集団がもつ「相互作用」「矛盾」に着目し、「矛盾」の解消に向かう活動を集団的に創造する実践理論の構築をめざします。活動理論では、このような異なる集団が交流することを「越境」、そこで創造される多声的な知を「越境知」と呼びます。したがって、この演習は「越境知探究型演習」です。
この演習では、大学周辺に居住されている地域住民がボランティアとして患者役(SP)を担います。また、実習病院の臨床実習指導者も参加します。これにより学生が臨床実習現場を疑似的に体験し患者の存在をイメージすることを意図されています。学生たちは本物に近いベッドサイドが再現される中で、患者とのコミュニケーションの実際や援助する責任を体験しています。学生の援助に対するSPの反応は学生たちに様々な気づきを促しています。それは、単なる技術の評価ではなく、看護師として援助することについて考える機会にもなっています。さらに、これが学内であり本物の患者ではないことで、学生にとって失敗が許される安全な環境でもあります。このような体験によって学生は、患者に合わせたやり方を自ら柔軟に考え実践していこうとする態度を培っているようです。
さらに、この場にいる臨床実習指導者や教員も、実習場面さながらに学生の拙さを補い、模擬場面であることを忘れてSPとコミュニケーションを取っています。まさに、臨床現場が再現されている演習だと感じました。そして、臨地実習指導者や看護教員にも様々な学びがうまれていました。例えば、同じ事例への看護でも、臨地実習指導者と看護教員が互いに大切に考えていることが違うことに気付く機会となっていました。その違いについて、何が違うのか、なぜ違うのかを追求し、お互いの持つ自明性を明らかにしていくことで、臨床と学校をつなぐ教育についての新たなアイディアが生まれてくる可能性を感じました。
意見交換の様子意見交換の様子
参加者の皆さんから、「臨床に近づけていく、臨床を学内に持ち込むという発想が教育のイノベーションだと感じた」、「互いの自明性に気付く、それを教員と指導者が学びとして蓄積して「知」となるような取り組みを妄想した」、「SPと学生の中に生まれる「対話」がkeyになっていると感じた」「単にこの演習のやり方を模倣したではこの演習での学びは実現できず、理論的基盤をもって企画する大切さを感じた」等の意見が出ました。
今回の話題提供から、新たな教育方略を考えるワクワク感とともに、臨床と学校をつなぐ教育とはどの様な教育なのか、学生が学習者から実践者へと育つために何が必要なのかを改めて考える機会となりました。
参加いただきました皆様、有意義なディスカッションをありがとうございました。