平成28年度第2回定例会を開催しました


皆さま お元気ですか?平成29年!年が明けて初めの定例会が開催されました。
昨年の教育セミナーで『キャリア発達』をテーマに議論をしました。その流れを受けて今回(平成28年度第2回)は看護師のキャリア発達研究から話題提供をいただきました。
お招きした先生は、千里金蘭大学の中本明世先生です。先生の研究テーマは『看護師のキャリア発達と支援』、大学院から現在も看護師のキャリア発達の研究を続けておられます。
話題提供のテーマは『看護師のキャリア発達と支援―キャリアの危機をうまく乗り越えるために―』
講師の中本先生は、始まりにあたり、「いつもはそちら側(参加者)で楽しんでいるので、今日は緊張しています。」と少々硬い表情?・・・・。
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まず、キャリアの理論的基盤をいくつか紹介していただき、様々なキャリア概念を学びました。そして、キャリア10年~15年のジェネラリスト看護師を対象としたキャリア発達研究のプロセスをわかりやすく説明してくださいました。キャリア発達過程は、<5つのフェイズ>で捉えられるということです。<第1フェイズ:看護師として懸命に看護行為を身につけていく><第2フェイズ:看護行為に自信は持てるがマンネリ感を抱く><第3フェイズ:看護師としての存在価値が揺らぐ><第4フェイズ:培ってきた自分の看護を発展させる><第5フェイズ:自分の看護を展開しながら将来像を描く>
中本先生は、第2フェイズから第3フェイズが、キャリア継続の危機的状況であると指摘されています。そして、この第2と第3フェイズの時期に、“大きな環境の変化”に出会うことで、内省が促され【内的側面の成長発達】に相当する第4フェイズや第5フェイズへと移行していくとされています。
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今回の定例会参加者は、臨床家や教育者、大学院で学んでいる方などでした。
まず、研究参加者の特徴や、第2フェイズと第3フェイズにある大きな環境の変化についての質問がされました。
①「今回の研究参加者は転職離職経験がなく、役職についていない集団としての特徴から、研究結果が特殊なものになっている可能性があるのでは?」それに対し、中本先生は「地元密着の病院である特徴もあるが、10年以上の看護師でも役職がない人は大勢いるので、特殊というわけではない。」
②「この変化は起きるべくして起きたのか?それとも自らの意志で起きるのか? “大きな環境の変化”を起こそうと能動的に行動するか否か、ですでにキャリアを発展できるかどうかの根がある。だからこそマンネリ感の原因に着目することは大切。」
③「今回の研究ではライフイベント(結婚、出産など)との関係は調査していないが、ライフイベントとキャリアとの関連の先行研究では結婚出産などが、看護現象の理解や仕事のとらえ方を変化させ、より主体的で肯定的な変化を及ぼしていることが明らかになっているし、金井のキャリア論からもキャリアを生活全般の視点で捉え、あえて「流されてみる」という時期があることなどを考慮すると、結婚出産は人生の大きなイベントであり、軽視できない要素ではないか。」など、様々な意見が飛び交いました。

次に、具体的なキャリア支援についての議論になりました。
第2フェイズで「マンネリ感」はなぜ起こるのか?
① 「“大きな環境の変化”に出会わない看護師はそこで止まり、ルティーン的な働き方に陥っている、あるいは変化を自ら起こすために容易に離職を考える。」
② 「転職もキャリア発達のひとつ。しかし、病院では、育てた看護師の離職は人材育成の費用対効果として悪い。看護職者の支援なのか、院内看護師の支援なのか、どちらの視点で「支援」を考えるのか明確にした議論が必要。」
③ 「看護自体、患者ごと、その時ごとに異なる活動を独自に考えていくクリエイティブな実践。にもかかわらずマンネリ感が生じていること自体、問題視されるべきでは。」
④ 「毎日同じことを繰り返していると、“マンネリ化”するのはある意味当然。」
⑤ 「よく“業務”に追われるとか言うが、“業務”とは何か、看護を業務化しているのは看護師自身ではないかという視点が抜けているのではないか。」
⑥ 「看護を“業務”としてやりこなすだけの現実の中で、看護を語り合うことや意味づける機会、向き合える機会そのものを持つことの難しさもある。だから、意味を見出すような取り組み(リフレクションの機会の設定)もしている。」
⑦ 「認定看護師やCNSという資格志向なのは、自分を評価する客観的指標がもてなくなっている現れと考えることもできる。」
⑧ 「看護師という職業自体に専門性があるが、そこに意味を見いだせていないことが“マンネリ感”を生んでいる。」
⑨ 「雑談で看護について話ができる、看護を語り合えることや質の高い看護実践を見る機会がある職場では看護の意味づけがしやすいのではないか。組織がいかに看護を大事にしているかが問われる。」
⑩ 「継続教育のほうが大切という見方もある。モデルとなる先輩看護師がいて、なりたい自分の将来ビジョンを描ける、夢を持てる職場であれば「マンネリ感」は起こりにくいのでは?」
⑪ 「学生時代に大事に育てられた経験も大事。学生時代や、看護師としても大事に育ててもらえた、看護への愛着を感じられていたことが、今に繋がっている。」

最後に、「キャリア発達支援」とは・・・・・・・。
中本先生は、キャリア支援として、看護師にとって大きな環境の変化となる機会を与えること、環境の変化の中で病棟スタッフから受け入れられているという感覚やこれまでの経験が活かせたという実感を得られること、自分を振り返り自分の看護に対峙できる機会を与えることなどを挙げておられます。会場からの意見では、
「看護に気づく=看護の価値を再発見できるような支援が必要では?」
「看護の価値を再発見できる機会とは、たとえば、自分の課題を超える機会、できていなかった自分に気づく機会、看護研究をして看護に気づく機会、自分の道を再考する機会」
「現実の臨床現場で今、何が起こっているのか?看護が見えにくいのでは?看護の楽しさ、やりがいを支援する側が伝えるのが大事、看護の面白さ、楽しさを伝えられていないのかもしれない」といった意見が出ました。
【看護】を語り合う文化がなくなっている・・・・臨床現場の忙しさの量も質も変化している・・・・その中でいかに【看護】に気づいていくか?“気づけるこころ”が育っていることが必要。どうやって“気づけるこころ”を育てるか?・・・気づけるこころの前提として、他者の発言に耳を傾け、受け入れるというオープンマインドが育っていることが必要で、これは基礎教育に要求されることではないか。また、態度や心の持ちようを変える、環境を変えるといったジョン・クルンボルグのキャリア発達論が、クリティカルシンキングの態度要素と類似していることから、クリティカルシンキングを鍛えることは、キャリア支援にもつながるのではないかといった意見も出ました。
「我々は学生や看護師たちに【看護】を伝えられているだろうか・・・・?」「看護をつないでいける教育って・・・・?もっと議論したい・・・。」と、思ったところで時間がきました。
看護や看護教育の議論は尽きることはありません。
今回は、中本先生の研究成果を題材に、様々な視点から多くの意見を聞くことができ、有意義な時間を過ごすことができました。ありがとうございました。
平成29年度の「看護エデュケア研究会」の活動も楽しみにしていてください。